イタリア料理~ロンバルディア州~
ミラノのあるロンバルディア州。ポー川が流れる肥沃で広大なロンバルディア平野は、イタリア有数の穀倉地帯にして酪農・畜産地帯。
したがってパスタだけでなく、米も料理に登場することが多い。
トウモロコシの粉であるポレンタを冬の主食とすることも多く、ロンバルディア地方の人のことをポレントーネ(ポレンタ食い)と揶揄したりもするほどだ。
冬季の厳しい寒さを乗り切るため、バターやチーズをたっぷり使った濃厚でカロリーの高い料理が発達している。
盛んな酪農・畜産業が生み出す加工食品は多種におよび、また品質も高く、DOP(Denominazione di Origine Protetta保護指定原産地表示)、IGP(Indicazione Geografico Protetta 保護指定地域表示)の指定食品も多い。
チーズ
チーズでは、硬質で、すりおろして料理に使用する「グラーナ・パダーノ Grana Padano」、 マントヴァ付近で生産される「パルミジャーノ・レッジャーノ Parmigiano Reggiano」、 ワインでも有名なヴァルテッリーナ地方の「ビットBitto」と呼ばれる硬質チーズ、 脂肪分の少ない柔らかな「クアルティローロQuartirolo」、やや硬質の「プロヴォローネ・ヴァルパダーナProvolone Valpadana」、 イタリアのウォッシュタイプのチーズの代名詞「タレッジョTaleggio」、青カビチーズの「ゴルゴンゾーラGorgonzola」、 ブレンバーナ渓谷で作られるセミハードタイプの「フォルマイ・デ・ムット・デッラルタ・ヴァッレ・ブレンバーナ Formai de Mut dell’Alta Valle Brembana」、 7世紀にはすでに製造されていたというヴァルテッリーナ地方の名産チーズ「ヴァルテッリーナ・カゼーラ Valtellina Casera」 などがDOP食品である。
サラミ・ハム
サラミやハム、ソーセージも豊富で、アンティパストの主役になることが多い。
こちらも優良品が多く、ブリアンツァ産のサラミ「サラメ・ディ・ブリアンツァ Salame di Brianza」、ヴァルツィ産のサラミ 「サラメ・ディ・ヴァルツィ Salame di Varzi」、 定番の小ぶりのサラミ「サラミーニ・イタリアーニ・アッラ・カッチャトーラ Salamini italiani alla cacciatora」などはDOP食品に指定されている。
生ハム、サラミを盛り合わせた「イタリア風前菜盛合せ Antipasto Italiano(アンティパスト・イタリアーノ)」をオーダーすると、 ロンバルディアでは、乾燥牛肉の「ブレザオラ Bresaola」のスライスも盛られていることが多い。
脂身のない部位の牛肉を塩漬けにし、ゆっくりと乾燥させたこの地方の代表的な加工食品で、柔らかく繊細で淡白な味わいが特徴。
好みでオリーブオイルやレモン汁を振りかけて食す。
特にヴァルテッリーナ産のブレザオラ「ブレザオラ・デッラ・ヴァルテッリーナBresaola Valtellina」は絶品でIGP認定食品である。
南隣のエミリア・ロマーニャ州が名産地として有名なハム「モルタデッラ・ボローニャ Mortadella Bologna」や、大ぶりのソーセージ 「コテッキーノ・モデナ Cotechino modena」「ザンポーネ・モデナ Zanpone modena」もロンバルディアのIGP食品。
ポー川とパダーナ平野を共有するこの2州は、食材の特産品に共通のものが多い。
モルターラ地方では、貴重で素晴しい味わいのガチョウのサラミ Salame d’Ocaも生産されている。
個性的で味わい深い風味がお好みなら、 豚の血と油脂を固めた滋養豊かな黒いソーセージ、サングィナッチョ Sanguinaccioを試してみよう。
香辛料が効いているので案外食べやすく、スタミナもつくので寒い冬を乗り切りたいときに最適。
オリーブオイル
料理にはバターを使うことが多いロンバルディアだが、オリーブオイルも2種類がDOP食品に指定されている。
ブレシア、ベルガモ、レッチョ、コモ湖周辺で生産される「ラーギ・ロンバルディ Laghi Lombardi」と、 ブレシアやマントヴァ付近で生産される「ガルダ Garda」である。
料理にコクを出すにはバターもよいが、 たとえばブレザオラの繊細な味わいを引き立てたいような場合には、こうした上質のオイルをセレクトするのがいいだろう。
魚
ロンバルディアは海をもたない内陸部の州なので、伝統料理に使われてきた魚介類は、もっぱら湖や川の淡水魚、あるいは塩漬けタラ(バッカラ)などの保存できる海産物である。
前菜
湖水地方の淡水魚カヴァーダノを使った「カヴェーダノのパテ Pate di Cavedano(パテ・ディ・カヴェーダノ)」などが 魚介の伝統的アンティパストとしておすすめ。肉厚ながら淡白な白身魚で、においもなく食べやすい。
シンプルで素朴な「フィラシェッタ Filascetta」は、どことなくフォカッチャに似た、軽食としてもおすすめのパン。パン生地のうえに、赤玉ネギとチーズをのせ、少量の砂糖を加えて焼き上げる湖水地方の伝統料理だ。
「ポレンタ・パスティッチャータ Polenta Pasticciata」は、短冊状に切ったポレンタとミートソースを交互に耐熱皿に並べ、 擦り下ろしたグラーナ・パダーノチーズをかけてオーブンで焼いた料理。あつあつを食べると体が一気に温まる冬におすすめのアンティパスト。
リゾット
なんといっても有名な「ミラノ風リゾットRisotto alla Milanese(リゾット・アッラ・ミラネーゼ」。
牛骨の旨味たっぷりのコクのあるブイヨンにたっぷりのバターとチーズを加えて、サフランで鮮やかな黄色に仕上げる見た目も美しい一品。
ロンバルディア特産の、茹でて食べる腸詰めサラメッレを使ったリゾット 「リゾット・コン・レ・サラメッレ・クレモネージ Risotto con le salamelle Cremonesi」もコクとスパイスが楽しめる米料理としておすすめだ。
パスタ・スープ
平野部の特産野菜であるカボチャの、ペーストを包んだトルテッリ(詰め物をした平たいパスタ) 「トルテッリ・ディ・ズッカ Tortelli di Zucca」は、ほのかな甘みとバターソースがよく合う優しい味わいの料理。
この地方の家庭料理として最も一般的なプリモピアットのひとつだ。
寒い冬に体を温めるためにスープやミネストローネ(野菜スープ)もよく食される。
各地方でバリエーションも多く、 野菜スープにパンを加えた「パヴィア風スープZuppa alla Pavese(ズッパ・アッラ・パヴェーゼ)」や「パン入り野菜スープPancotto(パンコット)」、 野菜と豆を煮込んだスープにひとつかみの米を加えた「ミラノ風ミネストローネMinestrone alla Milanese(ミネストローネ・アッラ・ミラネーゼ)」 などがある。
セコンドピアット
セコンドピアットには、ミラノの定番料理で、牛のすね肉を筒切りにしてトマトで蒸し煮にした 「オッソブーコ Ossobuco」をぜひ味わいたい。
牛肉と野菜の旨味が溶け出したソースは絶品で、ミラノ風リゾットやポレンタを添えていただく。
「ミラノ風カツレツ Cotoletta alla Milanese(コトレッタ・アッラ・ミラネーゼ)」も食べやすくておすすめ。
仔牛の肉を叩いて薄く伸ばし、卵とパン粉をまぶして香ばしく揚げたものだ。骨付き肉だと風味が増していっそうおいしい。
「スカロッピーナ Scaloppina」も叩いて伸ばした仔牛肉を使うが、こちらは揚げずに、小麦粉をまぶしてバターソテーした料理。 レモンや白ワインで風味をつけることもある。
「アッロスティーニ・アンネガーティ Arrostini Annegati」は、仔牛のあばら骨付きロースを、セージとローズマリーと共にバターでこんがり焼き、 白ワインとスープを加えて軽く煮た料理。
肉も柔らかく、北イタリアの肉料理の中では比較的さっぱりした一品。
ロンバルディアの各地方で様々なバリエーションがある代表料理「カソーラ Casoeula」は、この地方を訪れたならぜひ食しておこう。
ロンバルディア産の豚肉、ソーセージに、キャベツやニンジン、セロリなどを加えて煮込む体の芯から温まる料理だ。
地方によっては豚の皮、耳、 足も加えてコクを出すこともある。
ポレンタを添えるのが一般的だ。
魚では、コモ湖周辺のウナギと淡水魚料理が有名で、煮たり揚げたりとバリエーションも豊富だ。
セージ、タイム、イタリアンパセリを加えたトマトソースの中で、特産のウナギをぶつ切りにして煮込む伝統料理 「コモ湖風ウナギのトマトソース煮Anguilla del Lario(アングイッラ・デル・ラリオ)(ラリオ湖=コモ湖)」や、 コイ科のテンチという魚を玉ネギとポテトといっしょに煮た「コモ湖風テンチの煮込み Tinca alla Lariana(ティンカ・アッラ・ラリアーナ)」が代表的。
水にさらした塩漬けタラに、バターとレモン汁、イタリアンパセリを加えて煮た 「マントヴァ風塩漬けタラBaccala’ alla Mantovana(バッカラ・アッラ・マントヴァーナ)」もくせがなく軽い味わいでおすすめ。
川魚のカマスを、ケイパーやパセリ、ビネガーといっしょにマリネした 「ルッチョ・イン・サルサ・アッラ・マントヴァーナLuccio in salsa alla Mantovana」などは日本人にも親しみやすい味だ。
珍味がお好みの方は、カタツムリをトマトソースで煮込んだ「ルマーケ・イン・ウミドLumache in Umido」を試してみよう。
デザート
クリスマスシーズンに食されるケーキ「パネットーネ Panettone」や、復活祭の鳩型ケーキ「コロンバ Colomba」は有名だが、 ロンバルディアでは「マジゴット Masigotto」と呼ばれるプラムケーキを見かけることも多い。
白のDOCG(「Denominazione di Origine Controllata e Garantita 統制保証原産地呼称」) スパークリングワイン「フランチャコルタ Franciacorta」がよく合う。
フランチャコルタ Franciacortaは、フランスのシャンパーニュ地方と同じ製法で作られるスプマンテで、トーストとナッツの香り、シルクのような舌触りと、繊細でエレガント。イタリアのシャンパンと呼ばれている。
「ブディーノ・デッラ・セルヴァ Budino della Serva」は、パネットーネと砂糖漬けの果物をダイス状にカットし、クリームの中に練りこんでプリンの形に仕上げたもので、爽やかなスパークリングワインとよく合う。
普段から手軽につまめるのお菓子は「トッローネ Torrone」。
ハチミツ、卵白、砂糖を練り合わせ、アーモンドをたっぷり加えて固めたものを棒状に切ったクレモナが発祥のドルチェ。
甘く柔らかく、コーヒーと合わせてもいいが、甘口の白ワイン「モスカート・ディ・スカンツォ Moscato di Scanzo」をお供にしてもいいだろう。
甘みの強いお菓子よりはフルーツをお好みの方は、特産の洋ナシをオーダーしてもよい。 マントヴァ付近で収穫される洋ナシ「ペーラ・マントヴァーナ Pera mantovana」はIGP食品で、高級感のある芳香と上品な甘い味わいを楽しめる。
よく熟した洋ナシに、特産のゴルゴンゾーラ・チーズを塗って食してもおいしい。
ワイン
チーズやハムの名産地であるヴァルテッリーナ地方は、 ワイン造りでも有名。
スイスも間近の山岳地帯で育てられるブドウの木は、入念な手入れや間引きを経て、なめらかで重厚な味わいのDOCG赤ワイン「ヴァルッテッリーナ・スーペリオーレ Valtellina Superiore」を生み出す。
ネッビオーロ種が中心で、タンニンが強く、この地方の熟成したチーズ、肉料理全般やジビエ料理などにもよく合う。
また、DOCG赤ワイン「スフォルツァート・ディ・ヴァルテッリーナ Sforzato di Valtellina」は、ネッビオーロ種を主に作られるこのワインで、 収穫したブドウを一度干してから製造されるため、アルコール度数は最低でも14%以上になる。濃厚な味わいなので、料理を合わせるなら、熟成したチーズやバターソースなどを使った肉の一品を選ぶようにしたい。 あるいは食後にビターチョコレートをつまみながら、このワインをじっくり味わうのもいいだろう。
ポー川の南パヴィア周辺では、DOCGの白ワイン「オルトレポー・パヴェーゼ・メトド・クラッシコOltrepo’ Pavese metodo classico」が作られている。ピノ・ネーロ種を最低でも70%使用するこの辛口ワインは、果実味とコクが特徴。
魚料理や、「ミラノ風ミネストローネMinestrone alla Milanese(ミネストローネ・アッラ・ミラネーゼ)」に合わせると食が進むこと間違いなしだ。